脚本家クラス
本科修了生の声

72期:金井 寛

金井 寛

あの頃

『まず最初のシーンを、これ以上魅力的にならないというぐらい、一生懸命書きます。そうしたら、次のシーンを、またそれ以上に魅力的に書きます。それを続けて最後まで書いていくと、非常に魅力的な失敗作ができます』私が脚本家教室で教わった、シナリオの極意の一つである。もう十年以上前のことだが、その頃、教室は熱気で溢れていた。実際に第一線で活躍している脚本家の授業はどれも興味深く、すぐ役に立つ実践的なもの、デビューのきっかけになった出来事、明らかに自慢話と思えるものすら、生徒たちはみな、食い入るように聞いていた。

私も尊敬する脚本家の話は、一言も漏らすまいと、速記者のごとくすべてをメモしたことを覚えている。結局、のちにそのメモを見返すことはなかったが、それはすべてを暗記してしまったからである。そうした、ためになる話を聞いていると、自分も明日からでもプロになれるという気がしてくるから不思議だ。その勢いのまま、本科の授業に組み込まれている、課題作成に取りかかるわけだが、先生方のありがたいお言葉のおかげであろうか、筆がどんどん進むのである。あっという間に一つの作品が生まれた。

こうして書かれた生徒の作品は、講師である脚本家の先生が読み、指導、添削してくださるのだが、作品に自信を持っていた私は内心、「褒められてしまう。恥ずかしいなア」と、わくわくしていたものである。ところが、大御所と呼ばれるその先生は私の脚本の弱点をこれでもか、これでもかと的確に指摘してくださり、私がグロッキー状態になった辺りで、私の隣に座った美しき女性の作品に話を移し、こともあろうか彼女の作品を褒めまくったのだった。(それは決して女性が美しかったからではなく、作品が面白かったからです。

名誉のために)その女性は、あっという間にプロとして巣立っていった。私もなんとか、この世界に入ることができた。思えば、あの頃、みんなで切磋琢磨した、あの活気が、たくさんのプロを生み、育てたのではないだろうか。そして今、テレビドラマは膠着状態に陥ってるような気がする。似たような発想、似たような設定。だが、だからこそチャンスだと、も思う。新しい才能で、再び、ドラマの黄金期を築いてほしいと切に願うのである。(あ、僕もがんばります……)

大手電機メーカーの会社員から転職し、脚本家、構成作家に。最近は舞台の作・演出も手掛けている。主な作品:『相棒』(テレビ朝日)『Lドラ ママはニューハーフ』(TX)『子だくさん刑事』(TX)『危険な関係』(東海テレビ)『奇跡体験アンビリバボー』(CX)など