創立55周年記念特別鼎談

脚本家の表示

山本

舞台書く人を劇作家って言いますよね。でもドラマ作家とはあまり言わない。ちょっと批判的になっちゃうけど、テレビに劇作家を連れてくるっていうのが、最近多い気がして。プロデューサーはその人たちを「作家」として尊重するけど、脚本家は仲間内みたいな、手下っていったら変だけど。

鎌田

下に見るとか?

山本

若干、職人さんみたいな、職人さんって言い方も変だけど。何ですかね、劇作家だとバンって名前が出ていて、長いことずっとテレビ業界に貢献しているベテランの脚本家さんは、こんな小っちゃい名前だったり、名前が載ってなかったりとかすると、ちょっとそれは歪んでるっていうか、変だなって気はします。

鎌田

いや、それ、言わないといけない。言わないと分からない。

山本

そうですよね。たまに、最初のリリースのときに落ちてたりすると、自分が載らなかったら、もっと載らない人たちがいっぱいいるだろうから、義務というか役割として、脚本家の名前ちゃんと入れてねっていうふうに言いますけども。それぐらい脚本家って、ちょっと立ち位置が、何だろうな。

鎌田

馬鹿にされだしたら、どんどんそのまま行っちゃう。

山本

言う人、少ないんですかね。やっぱり、もめるの苦手な人、多いんじゃないかな。

鎌田

ぼくは駆け出しのころほど、よく喧嘩してた。

山本

素晴らしい。

鎌田

いや、駆け出しの頃って、プロデューサーとかディレクター、みんな上の人ばっかりだから、いくら言っても生意気な奴ですむから。そのときは腹を立てて降ろされたりするけど、必ずもう一度声をかけてくれる。黙って言うこと聞いてたら、たぶん仕事は続いていかなかった。

山本

分かります。

鎌田

生意気な方が絶対得なんだよって話は、教室なんかでしてるんだけど。

山本

そうですね、ぶつかっていけますもんね。

鎌田

ベテランになっちゃうと、「偉そうにして」みたいに思われるから、気をつけて言うようになったけどね(笑)。

金谷

けんかするのは勇気要りますよね。

古沢

いや、僕はほんとしたことないですから。

金谷

そうなんですか。

古沢

僕に関しては、「ここ、こうじゃない?」って言われると、そうかもしれないってすぐ思っちゃって。いや、これはこれでいいんですっていうほど、強い思い入れがないんです。すぐ説得されちゃう人なので。

オリジナルと脚色

古沢

鎌田先生の頃とか、『太陽にほえろ!』にしたって、企画は他の人のかもしれないけど、内容は作家のオリジナルの話を書いてるじゃないですか。そうすると、やっぱり作家、脚本家は大事にクレジットされるだろうなと思うけど、漫画原作とかだと、それを脚本にする人っていう、そういう部品を作るパートの人っていうふうに使われてるんだろうなとは思うんですよね。原作者のほうがやっぱり大きく名前出ちゃうから。オリジナルを書くしかないんじゃないでしょうか。

金谷

逆にいえば、オリジナルでというプロデューサーや枠が、少なくなってきたのかなっていう感じはしますけれど、どうなんでしょうか。原作があったほうが安心というプロデューサーが増えてるかなという。

山本

それは本当にそうで、そもそも原作がないと企画がなかなか通らないって、皆さんおっしゃいますね。BS時代劇の枠も、オリジナルってほんとなくて、『小吉の女房』もすんなりは通らなかったです。
漫画原作のものだと、漫画のコマをカット割りと同じように思ってるのかなという人も中にはいて。漫画とそれをドラマにすることとは全く違う表現だと思うんですけど。

鎌田

漫画って紙だから、平面。ドラマは役者がやるから立体になるじゃないですか。それに気をつけてドラマにしないと、平板になってしまう。

金谷

台詞で語るより、目の表情で語るっていう役者さんがいれば、そちらのほうが伝わるってことありますものね。

鎌田

ただ、平板の迫力っていうのも、あるけどね。

山本

小説の台詞も、そのままドラマの台詞にはできないですしね。私、市川崑監督の映画が好きでよく見ているんですが、市川作品の脚本の多くを手がけている和田夏十さんは、オリジナルはあまり書いていらっしゃらなくて、ほとんどが原作ものなんです。でも、市川監督と組んで素晴らしい映画をたくさん作ってらっしゃる。脚色するということが、クリエイティブとして劣っているのかというと、そんなことは全くないと思っているんです。

脚本料

金谷

著作権の権利関係で、嫌な思いをしたってことはありますか?

山本

私、デビューしてからしばらくは、NHKの仕事しかやっていなかったんです。NHK、最初に契約書を交わすし、幾ら頂けるかとかも初めから分かってるので、それが普通だと思っていたんですけど、いろいろな所と仕事をするようになって、違うということを初めて知ったというか。契約書がないことも多いですし。

金谷

ないですね。

山本

制作会社と局では事情が違って、最初の脚本料に再放送料一回分が含まれている場合があるとか、そういうこと、はっきりとは知らなくて。いろいろと聞きかじっているうちに、少しずつ分かってきたみたいな感じなんですけど。具体的なお金のことを知らないまま仕事をやっている方も多いと思うんで、そこで不満が出てしまうのは、ちょっともったいないなって思います。

鎌田

そういうお金の話も、権利関係のことも、最初にやんなきゃいけないじゃない。

山本

最初やります?

鎌田

やりますよ。何度も話し合う。嫌なのよ、おたがいに金の話するのは。

山本

最初に言ってくださる方もいるけど、終わってからおっしゃる方もいますよね。

古沢

ありますね。

金谷

ほとんどですよね。終わってからっていうのが。

古沢

やっぱお金の話は最初にしてほしいなっていうのは思います。

金谷

お仕事に入る前に。

古沢

入ってから、「いや、枠が枠なんで、バジェットがこれしかないので」とか言われても、こっちのやる仕事は同じだから、それと関係なく欲しいんでっていう話にはなりますよね。最初に言ってほしいんです。そういうことは。

金谷

そうですよね、安いからって手を抜くわけにいかないですよね、私たちの仕事は。

古沢

よく知ってる相手だったらまあいいですけど、初めてやる人たちとだとちょっと心配ですね。

鎌田

それならなお、嫌でもお金の話はした方がいいよ。寺島さん※は脚本料と引換えに脚本を渡しなさいと言っていたくらいです。(前常務理事寺島アキ子氏。連盟創立以来、脚本家の著作権確立に尽力した。2010年没)

金谷

あと、若かった頃によく、いや、これ何々先生もこの金額だから、君にはこれぐらいしか出せないみたいなことが、結構横行してて。

鎌田

いや、最近でも言われるよ。

金谷

そうですか。

鎌田

その人がこのぐらいだから、これしか出せませんって、ほんとかどうか分からないけど(笑)。

金谷

じゃあ皆さんには、ぜひぜひうんと高いギャラで、お仕事をお願いいたします。

連盟の役割

金谷

脚本を書いてるときは皆さん、目の前の作品作りに一生懸命で、そのときに権利がどうのっていうことは、おそらくあまり考えてらっしゃらないだろうなという気がするんですけれど、その中でやはり連盟が果たすべき役割っていうのは、何なんでしょう?

山本

今、事務所に入ってる脚本家さん、多いじゃないですか。売れてる作家さんがいる事務所に入ると、一緒に何かできたりとかする。

鎌田

若いときは、とにかくチャンスが欲しいからね。

金谷

そうですね、コンクールで賞を取っても受賞作品を映像化しないコンクールも結構ありますし。映像化されても、その後お仕事につながることも少なくて。そういう人に、マネジメント会社は声掛けて「うちに入らない?」って言って、プロットを書かせる。

山本

私は入ったことがないのでわからないですけど、事務所に入っている人は、事務所が権利関係やってくれるんですかね。

古沢

やってくれるんじゃないですかね。僕も入ってないから分からないですけど。

金谷

やっているところもあるようです。ただし、連盟の管理手数料は今、4%ですが、こんなに低い手数料でやっているマネジメント会社はないと思います。
しかも本来、こうした著作権を管理する事業者は、文化庁長官の登録を受け、使用料規程や管理委託契約約款を届け出る義務があるんですね。連盟はもちろん登録しています。だから皆さん、ぜひ連盟に入ってくださいとお願いしたいのですが、連盟に加入して次の仕事が来なくなったらどうしようという不安もあってか、なかなか踏み切れない方がいらっしゃるのも事実です。

鎌田

ほんとに次の仕事来ないの?

金谷

そう思っちゃうんでしょうね、やはり。

山本

一度知り合いから聞いたことはありますよ。「連盟に入ったら、次頼まないから」って言われたことがあるって。ちょっと前の話ですけどね。

古沢

そういうところとは、仕事しないほうがいいですよね、そもそも。

鎌田

仕事しないほうがいいと思うんだけど。著作権って、そのときだけの問題じゃないからね。ただ、新人で、これからって言う人は、強く言えないだろうから。タダでもいいからその世界に入りたいとか、そういう時あるからね。

山本

最初の時はね。でも、タダでしたら仕事じゃないですもんね。やっぱりちゃんともらわなきゃ駄目ですよ。

金谷

皆さま、有意義なお話をありがとうございます。本日語っていただいたことを、ぜひ脚本家全体の問題・課題として、この55周年から先を見据えていきたいと思います。長時間にわたり、ありがとうございました。

(日本脚本家連盟事務局にて)